横山秀夫「影踏み」

横山秀夫「影踏み」読了。

影踏み (祥伝社文庫)

影踏み (祥伝社文庫)


短編7作からなる。1作ずつも濃淡はあれそれぞれ十分に面白いが、やはり7作を通して読んでこその作品。

瑣末な点かもしれないけど、主人公が操る「自転車」と「ドライバー」の描かれ方がちょっと他には見たことがない感じで、新鮮。

主人公の行動範囲そのものが全編通じての重要な要素になっていて、その点を読者に意識させるのが上手い。ただ、素朴な疑問だが、ここで書かれている「町」の「広さ」の感覚は、どの程度の規模の町に暮らしているとリアリティがあるのだろうか? 少なくとも東京や大阪の都市部のそれではないから、多くの読者は、描かれている「町」の「広さ」に“現実感”を感じつつも、自身が日常を送るそれとは明確に違っていることも合わせて感じるはずで、そのときの“現実感”がどこからくるものなのかがちょっと気になった。

弟・啓二の造形については微妙。性格付けや言葉遣い(主人公を「修兄ィ」と呼ぶところなどが象徴的)には、年齢がそこで止まっていることを考えても、最後まで違和感が拭えなかった。でも、それを差し引いても面白い設定。いや、この設定自体は似たのもあるんだろうけど、それをこの著者が引いてきたところに面白みがあるのだろうと思う。