吉村昭「羆嵐」(新潮社)


ザ・ワールド・イズ・マイン」の流れで本書に出会う。幸運だった。

余分な修飾のない静かな筆致で、羆による村落襲撃にまつわる物語が淡々と描かれる。
モチーフは実際に起こった獣害事件だが、そのドキュメンタリー的側面もさることながら、区長をはじめとする被害者たちの内面の変遷や羆と対決する銀四郎の人となりなど、人物の描写に思わず引き込まれる。また、そうした人間たちから反射的に浮かび上がる、羆だけでなく自然そのものの荘厳さに粛然とさせられる。

完全に余談だが、数日前たまたま書店で羆のイラストの表紙が目につき「シャトゥーン―ヒグマの森」(宝島社)をざっと読んでみた。狙いなんだと思うが、本書とはある意味正反対で、場面説明や人物描写が、何て言うんだろう、作り物感に溢れていて、ちょっとテレてしまった。


羆嵐 (新潮文庫)

羆嵐 (新潮文庫)


シャトゥーン―ヒグマの森

シャトゥーン―ヒグマの森