一色伸幸「うつから帰って参りました」(アスコム)
- 作者: 一色伸幸
- 出版社/メーカー: アスコム
- 発売日: 2007/09/27
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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脚本家・一色伸幸の名前を憶えたのは映画「木村家の人びと」でだったと思う。本書によると公開は1987年だったらしいから、大学1年か2年の頃だ。
その前年には、知名度的には「木村家」より数段上の「私をスキーに連れてって」が封切られているはずだけども、こちらについては公開当時の記憶が全くない。
この理由は割りと容易に想像がつく。関西で決して裕福とはいえない大学生活を送る身にとって、この映画(のプロモーション)で提示された世界はあまりにもリアリティがなかったのだ。
なんでかなと今考えると、経済的な理由はもちろんだが、単純に地理的な要因も大きかったのかもしれない。冗談でも何でもなく、甲信越や東北のスキー場は関西の平凡学生には相当な距離感があった。妙高とか志賀高原に仲間と2、3回は行った記憶があるが、まさに「遠征」という言葉がぴったりのかなりのビッグイベントで、少なくとも週末を利用してひょいひょい超えられるようなレベルのハードルではなかったように思う。
就職して東京の独身寮で、「私をスキーに連れてって」をちゃんと観たことがないと言ったら、東京の大学を出た同期に驚かれたことがあったようななかったような。
話を戻すと、「木村家の人びと」は、とても面白く観た。
映画そのものも好きな部類だったが、それ以上にこうした映画をつくる人たちのセンスに刺激を受けた。
監督・滝田洋二郎とともに脚本家・一色伸幸の名はインプットされ、その後意識してその作品を見るようになった。「僕らはみんな生きている」なんかは今も大好きな作品だ。
刺激的な作品をまさに「量産」していた90年代半ばまでと違い、最近は氏の名前を見る機会が減っていた。こちら側も意識的に探すことをしていなかったと思う。90年台後半の特異な経済環境に生きる中で、氏の作品を求める気持ちが自然に消えていたのかもしれない、が、これは乱暴な推測の域を出ない。いずれにしても、久しぶりに、本当に久しぶりに氏の名前を見つけたのが本書だった。
本書の主題についてはここでは書かない。ただ読むほかない内容だからだ。ただ、一色作品のどれか1つにでも思い入れのある方は読まれることをお奨めする。他の類書とは違う種類の感慨を抱かれるのではないかと思う。
1つだけ、どうでもいいことを書くと、一色氏が脚本の1本1本にここまでの思いを込められていたということに、失礼ながら、意外な印象を持った。勝手なイメージだが、もう少し客体化して物事を考える人というか、ちょっと違うかもしれないが設計士のようなタイプかと思っていたのだ。全然違った。少し驚き、そしてなぜか少し嬉しい気持ちがある。その理由は再読の際に考える予定だ。
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