新井英樹「真説 ザ・ワールド・イズ・マイン」


「真説 ザ・ワールド・イズ・マイン」全5巻、やっと読み終わりました。遅い。

真説 ザ・ワールド・イズ・マイン (1)巻 (ビームコミックス)

真説 ザ・ワールド・イズ・マイン (1)巻 (ビームコミックス)

真説 ザ・ワールド・イズ・マイン (2)巻 (ビームコミックス)真説 ザ・ワールド・イズ・マイン 3巻 (ビームコミックス)真説 ザ・ワールド・イズ・マイン 4巻 (ビームコミックス)真説 ザ・ワールド・イズ・マイン5巻 (ビームコミックス)


この大作、総合的な感想文など書こうものなら、それこそ1週間仕事になってしまうので、ごく簡単に2、3点だけ。

まず、松尾スズキが帯で指摘しているとおり、台詞の面白さに圧倒された。
特にトシのそれが秀逸の極み。深く練り込まれた由利勘平首相やマリアの台詞もシブかったし、須賀原秋田県警本部長の演説には泣けたが、何よりもトシの「全力ツッコミ台詞」が魅力絶大。

また、場面設定の卓越さと各シーンでの登場人物の描写にも唸らされまくり。

一例を挙げれば、目前に迫る暴力と死を前に被害者達が精神を折られていく、または、「憎悪」や「無念」なんていう「単色」ではとても表せない心境に落とし込まれていく、その感情の変わり様のトレースがそこここで出てくるが、その執拗さがかなりスゴい。

例えば、青森県警の山崎刑事の、以下のような一連の心象の移り変わりの描写。

  • 自身の権力の強さに疑いを持っていない「正義漢」的怒りの爆発(1巻P296)
  • 後に殺人鬼へと孵化するトシの変貌を本能的に察知しての一瞬の怯み(同P346)
  • 手足に致命傷にならない弾を何発もなぶり撃たれて、なお強がって「終めえだ!! お前ら終めえだ!!」(同P402)
  • しかしそれから僅か後には、痛みと絶望が臨界を超え「誰かあ…助げてよ」と涙する(同P405)

他にも、1巻終わりから2巻冒頭にかけての「ポポひょん」と「つとむくん」も然り(このシーンは全編通して屈指の名場面)。

2巻中盤からの「サカタ電器商会」一家の心象描写も凄まじい。

4巻前半の関谷潤子のアパートのシーンも絶品。体の自由を奪われてから最後の結末を迎えるまで、彼女はほとんど言葉を発していないが、描き出された感情の雄弁さといったらどうだ。


全編を通じてという点では、モンちゃんの造形を評価する声が巷間大きいみたいだけど、やはり何といっても、この作品最大最高の果実はトシなんじゃないだろうか。人格の変容、そして最後の瞬間に見せた彼本来の変わらない弱さを、これほどの一種荒唐無稽の話にも関わらず、絶大な説得力を伴って描き切っているのが何ともスゴイ。

キャラについては、他にもエッジの立った(特異であるという意味ではなく)のが続々。なかでも、由利勘平首相、須賀原秋田県警本部長、塩見青森県警捜査一課長、毎朝新聞・星野記者、トシの父親あたりが特に◎。


ヒグマドンがらみは、特にその全身が現れるまでがゾクゾクさせられた。それ以降はちょっとよくわからなかくなってしまったというのが正直なとこだけど、でもこれをトシモンのストーリーと掛け合わせる発想には文句なしに感嘆。

他にも3人がポルシェを奪ってからの逃走シーンとか、好きな場面についても触れたいけど、キリがないからよします。
ふう。面白かった。


最後に疑問が1つ。これ、版元が変わったのはどうしてなんですか? ひょっとして周知?